転ばない確率

いつも自分のことは棚に上げて「転んではいけない」とか言っていますが、まあいつもの世迷い言なのでお気楽に聞いてくださいな。

架空のレースを取り上げます。決勝まで上がれてそのレースで1回だけ転んだとしましょうか。結果は気にしないことにします。

そのときの転倒の確率を1回/12周としましょうか。でも1周には24回ターンがあるので1回/24回とした方が良さそうです。このときの転倒確率は

1/24、つまり0.04166

約4%となります。これを元にこのレースでの転倒しない確率、信頼度を算出します。

1-(1/24)=0.95833

つまりこの参加者は96%の確率で転倒しません。しかし実際には転倒していますからここより大きな値を取るように転倒しない確率、信頼度を上げていく必要があります。

この選手、仮にマシーンと呼ばれるようないつでも正確に同じフォームで走れるライダーだったとしましょうか。1回のファイナルレースでは24回のターンがあるので信頼度が0.95833ならば、1ターン毎の信頼度は以下のXで示されます。

0.95833=X^24 (Xの24乗)

つまり

X = 0.998228

となります。これ1000ターンを行って2回(ホントは1.7回ですけどね)しか失敗できない、そういう確率です。ほぼ完璧とも思えるような確率ですがこれをさらに向上させて1/1000の確率にしていかないと、数字上は転倒せずにレースを終えることができません。このモデルはあくまでも一つの要素の確率を求めていますが実際にはもっと多くの要素がありますから飛躍的に転倒リスクが増大するはずです。

実際にはヒトがやることですしそんな簡単には割り切れないんですけど。でも練習して、車両の整備をして、いつでも同じレベルにいろんなものを整えておかないとなかなかレースには勝てないですねえ。エイッ、ヤーじゃ勝てないですよ。

というわけで、思い出したように故障率と信頼度の教科書からネタを拾ってきましたけど、あんまり数学は得意じゃないので間違っていたら教えてください。


可視化されていない不幸の連鎖 (じゃなくてスパイラルなのか?) †
昨日のつづきから。転ぶとよくないよ、しかもよくないのは自分だけにとどまらないよ。それは回り回って自分に返ってくると言う話。

スピンしてエンストした、あるいはスピンダウンしてエンジンが止まって、そして車両と共にトラックから待避できた。これはすばらしいことだ。本人にケガが無ければ、他の参加者にも負傷者が発生せずにトラック上の障害物処理が済んだ訳だからこれ以上の処理はない。

このときに黄旗がでたとする。レース中に単独の転倒が発生すると現在のもてぎの(あるいは現在の国内ダートトラックでは)ルール運用上、ほぼ黄旗が揚がってスロー走行をすることになる。

主に初心者を対象と考えられるルールに、トラックからの待避後

再スタートする場合は、車両が破損していないかどうか、走行上危険がないかを確認の上、復帰すること。

8) フルコースコーション後、再スタートの隊列順序は以下のとおりとする。

転倒者がいた場合 以下1 ~ 3 の順に並ぶものとする。
フルコースコーションとなったとき、周回数として有効な最後の周の順位から、フルコースコーションの原因を誘発したライダー、および転倒者を除いた順。
転倒者。複数いた場合は競技監督がその順序を指示する。
フルコースコーションの原因を誘発したライダー。複数いた場合は競技監督がその順序を指示する。

 

ってのがあるのだが、これは転倒した参加者に重心があるんじゃないか、転倒した参加者が優先されているのでは?と思った。というのはその他の部分ではおおよそ速い参加者に優先権があるが、ここだけ転倒した参加者に優先権があるように思えるから。

 

結果 速い参加者 転倒した参加者
ヒートレースグリッド ×
ファイナルグリッド ×


上の表は○が優先される方を、×は優先されない方を示している。優先とは選択権があるまたは有利な条件、非優先とは選択権に制限があるまたは不利な条件と考えてほしい。実際のレースでの感じ方と大きな差はないと思いうがいかがだろうか?

ところが一旦転んでしまうとそれまで積み上げた速い参加者のタイムやポジションよりも転んだ参加者の復帰が優先となる。

 

結果 速い参加者 転倒した参加者
ヒートレースグリッド ×
ファイナルグリッド ×
継続中のレースでの転倒 ×


あくまでも、転倒者がデブリにならず、すぐに復帰できる状態に限るが。転倒者にはレース復帰が認められるがその他の参加者には得るところがない。にもかかわらず非転倒者の有利な状況は制限されてごくわずかなアドバンテージ以外認めらない。同じ事象での比較ではないので一概に等しく比べられるものではないが、転倒が発生しなければ全ての参加者の状態が制限されることはないと考えると、転倒した参加者のために他の参加者が制限を受けるのは、このルールが転倒した参加者に重心が近いように思える。それが上の表に表したものだ。この表、優先される対象が捻れていないだろうか。

4輪のレースでコース上のデブリを除去する間、最低限の低速走行をさせるのはドライバーの安全とゴミや油を除去する作業者の安全を天秤に掛けて見つけたバランスだと思う。タイヤの温度を極力下げずリスタートに備えることで事故率を減らし、かつトラック上の作業も安全に行える。

翻ってダートトラックにはタイヤの温度はあまり関係ない。もともとタイヤの温度は低いままスタートする。だから低速走行を続ける理由はないと言える。

ダートトラックではデブリが発生して数秒でどちらかの処置が執られる。

次の周回には支障がないので黄旗を出して低速走行させる
次の周回に支障があるので赤旗を出してレースを中断する
つまり、ダートトラックでの低速走行時はトラック上にレース続行上支障はない。唯一の理由と考えられるのは、安全に転倒者を復帰させるためだ。初心者なのでせっかくレースに出ているんだし復帰させてやりたい、と思うのはルールの作成者ばかりではなくてアタシも同じだが、しかしこのルール、転倒した参加者が復帰しても最後までレースを走りきる以外になにも得るところがない。リザルトにDNFとつかないだけだ。

いやいや、他にも理由があるだろ、オマエに教えてやっただろう?と言う声もあるだろう。そう。エライシトに教えてもらった。転倒した選手とその他走行中の選手の安全を確保するためだ、ったと思う。その時は、まあそうか、と思ったが、今になってみれば、そうでもないかと思ってみたり。というのも転倒したライダーを避けるために低速走行するような状況ってよほどひどいんだと思う。転倒の瞬間、後続の選手が避けることができればそのあとの選手は避けるだろう。その後10秒程度でトラックから待避できなければその時はレースの中断が妥当なはずだ。トラック上に競技が続行できないほどの除去されない支障が発生した訳だから。

ではこの転んでも安全に復帰できるルール、いらないのか?というと、これはこれで秀逸なんであってしかるべしとも思う。ただし選手権でなく、過去の呼び名で言えばエンジョイクラスならばだが。

選手権ってのは、最も優れた選手に与えられる資格で具体的には表彰台のてっぺんに立ってトロフィーをもらったりする資格のこと。多くの選手権大会(競技会)は機会の均等を計った上で優れた選手を優遇するようデザインされている。なぜか?優れた成績を残すにはそれだけのコストが掛かることを競技会のデザイナーは知っているからだ。練習を繰り返し、道具に手を入れ準備を整える選手が安定して優れた成績を残せるからこそ優遇されるのだ。ダートトラックレースでもこれは変わらない。タイムアタックやタイムドプラクティスでの成績はヒートレースのグリッド選択権を有利にする。同様にヒートレースの成績はファイナルのグリッド選択権を有利にする。これがすべてではないがダートトラックレースも一定の方向性を持ってデザインされていることが示される。

ところが転倒が発生した途端、転倒もせずに競技を続けていた選手達はそれまで積み重ねた準備を否定されてしまう。

仮に転倒者が出ても、競技に支障がでなければ続行することとなると転倒者以外の利益は全く阻害されない。

どちらが転倒しないように気をつけて競技に臨むものに対して有利だろうか。

アタシは転倒が発生してもできるだけ競技を続行するべきだと考える。それが転倒せずに競技をする、優勝する可能性を持つ選手の利益になるからだ。低速走行を行う理由はダートトラックレースには見いだせない。もし安全が確保できなければ競技を中断すればよい。

そのスパイラル 
そして、この転倒者を安全に復帰させる一連のルールには、転倒後復帰が保証される一方で転倒も許される、ということが問題だと考えている。復帰が保証されているから転べるのだ。転倒やエンジンストールして瞬時に復帰できるだろうか?復帰できたとしてもレースは進行して5秒なり10秒進んでいくのだ。フィニッシュまでにバックマーカーが出るか出ないかで競っているレースで約半周、10秒もの遅れを取り戻し先頭に追いつくことができるだろうか?

転倒するライダーもレースを続けているうちに優勝したくなるだろう。技術を向上させ優勝が見えてきたとき、それをじゃまするのはやはり転倒するライダーなのだ。せっかく転倒しないようになっても過去の自分に呪われ続けることになる。転倒後の復帰を保証し続ける限り転倒も許容されてしまうから、転倒に抵抗のないライダーにとっては転倒はダートトラックを競う上でのリスクにはならない。

先頭のライダーと比べるからわかりにくいのだろうか?では最後尾のライダーと比較してみよう。

転倒したライダーがトラックから待避して復帰の準備を整えている間に走行を継続する最後尾のライダーが周回を重ねてしまう場合、転倒したライダーと転倒せずに最後尾を走るライダーのどちらが優れたライダーだろう?現在のルールでは低速走行の上、先頭からの距離は30m程度、最後尾の直後に同じ周回数から復帰できることが保証されている。転ばないように丁寧に走るライダーと転倒後に復帰してくるライダーの差はわずか1車長程度でしかなくなる。その後復帰したライダーが1つでも2つでも順位を上げてフィニッシュしたとしよう。転倒しなかったライダーは最後尾でフィニッシュする訳だが、その価値は転倒したライダーよりも低いのだろうか?

転倒後20秒以内に復帰できなければ、通常確実に周回遅れになる。しかし現在のルール上はならない。このルール問題がないと言い切れるだろうか?

どうして今こんなことを書いているのだろうか? 
今こんなことを書いているのは、ここしばらくそんなことを気にも掛けなかったからだ。「転んではいけない」なんておちゃらけてれば十分だった。ちょっと気の利いたふうなことを書いていればたまにはフォロワーがいてちやほやされる。先日のレースで発生した赤旗の内容を聞いて、いろいろ思い出してしまった。今抱いている危機感は何年もくすぶっていた問題に火をつけてしまった。

ここ2、3シーズンのもてぎで行われるダートトラックレースはとても進化してきた。天候には恵まれないことが多かったけどそれを補ってあまりある競技運営が行われてきた。実に考え抜かれた、それまでの競技運営とは一線を画す文句の付けようのない緻密な運営。例を挙げれば散水という作業、人員配置、クラス毎の走行スケジュールと散水タイミングの組み合わせ、散水量、レースの度に安定した作業が維持されてきた。ひどい砂塵に顔をしかめたことはないはずだ。それは綿密な計画とその実施を支える人的資産を維持している証だ。それから、状況に応じた受付オプション、トラックの整備、余裕を持った年間計画と雨天の延期決定、どれも整然と行われてため息が出るほどだ。個人的な感想だけど、もてぎのダートトラックレースはいままでで最も恵まれた環境でレースが行われていると思う。思う、というのは2000年以前は知らないから。

あまりにも理想的な競技運営に惚けてしまった。そのために以前にあった問題を忘れてしまったのかもしれない。

ダートトラックは生涯現役時間が他の競技に比べて長い。古い車体でも勝てるし体力や資金力にも成績は大きく左右されない。それはトラックの表面が滑りやすく、レース時間が短いために経験や知識が成績に大きく影響する競技だからだ。勝ちを急ぐ必要はない。努力し続けると歳をとっても成績が伸びる競技なのだ。だから、転んではいけない。転倒は自分の生命を危険に曝すことだ。そして同じレースを走る人の生命を危険に曝すことだ。レースで転ばないこと、トラック上で止まらないことはとても価値あることだと思って欲しい。

今後、転倒や事故が多発しレース開催を一時中止するような事態が発生すると、現在の運営体制は雲散して二度と構成することはできないだろう。この体制を手放すわけにはいかないのだ。

追記 
だから、できるだけ転倒させないような仕組みが必要だ。転倒後復帰はできても最後尾から追い上げることすらできないと思えば転倒できなくなる。転倒を前提にターンに飛び込むのはまさに一か八かの賭になる。しかしそれでは安定して成績を残すことはできないのだ。

こんなことを書くのは前回のルール改正からしばらく経って十分にエントラントの意識が育ったからだと思う。もっといいレースが見たいと思えるようになったからだ。

だから、先日のレースの内容を聞くに付けあのころのいやなニオイを鼻の奥に感じざるを得なかった。多くのライダーは転倒に対する意識を向上させ、転倒や接触が原因の転倒を防ぐような努力を続けてきた。ライダー個人の成長はレースそのものの成長にも影響する。これを逆に退行させるようなことをしてはもったいない。もう一段、階段を上ってもいいときがきている。